2次創作 京都地検の女 「裏の顔」2

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 生徒1「ですから、これを担当の検事さんに渡して欲しいんです」

 紙の束を受付の女性に押し付ける。

 受付「このようなものはとりつげない規則になっていまして」

 生徒2「だったら、担当検事さんに合わせてください」

 受付「アポイントがありませんと無理です」

 鶴丸検事が登庁してくる。受付で押し問答をしている学生3人の制服を見て、ピンと来る。

 鶴丸「あなたたち、洛央高の生徒さんたちね?」

 応接室

 生徒1「これは私たちが集めた署名です」

 生徒2「竹内先生が殺人なんてするはずないんです。」

 生徒3「お願いです。不起訴にしてください」

 立ち上がって頭を下げる3人。

 鶴丸「まぁまぁ。頭をあげて。お座りなさい。残念ながら、署名が集まったからといって不起訴にすることはで      きないの。それでは法治国家とは言えないでしょ?」

 残念がる3人。

 鶴丸「でも安心して。きっちり調べて、真実を、きっと、明らかにするわ」

 笑顔で見合う3人。

 鶴丸「だからそのためにも、まずはあなたたちから話を聞かなきゃならないけど、大丈夫?」

 生徒たち「はい。」

 鶴丸「じゃぁ、まず、あなたたちと竹内先生との関係を教えてちょうだい」

 生徒1「私たちの部活の顧問です」

 鶴丸「何部?」

 生徒2「演劇部です」

 鶴丸「そう、演劇部…演劇部ってことは、竹内先生は、演技の心得があったの?」

 生徒3「心得ってもんやないですよ。あの来夢来人の旗揚げメンバーやったんですよ」

 鶴丸「えぇ?あの、日本一チケットの取れない劇団の?」

 生徒2「そう!勉強にも親身になってくれたけど、演技指導もそれはすごくって」

 生徒3「私たち、相当恵まれてました。いろんな学生演劇の大会で優勝できたんも先生のおかげなんです」

 鶴丸「吾妻さんも、演劇部の?」

 生徒1「はい。彼女は部長でした。竹内先生とも仲良しで。って、報道されているような間柄やないですよ。」

 生徒2「えぇ。とても体の関係を強要されていたようには見えませんでした。もちろん、恋人とかでもなかったで
     す」

 生徒3「なにしろ、そういうことには人一倍、気ぃつけてましたから、先生。」

 鶴丸「と、いうと?」

 生徒2「いくら演技指導が白熱しても、決して私たちの身体に触れることはなかったです」

 生徒1「一回、なんかの拍子に麗子にぶつかってもうたときなんかなぁ」

 生徒2「そうそう、平謝りに謝って、別に、大したことあらへんのになぁ」

 生徒3「それだけ、生徒を大事にしていた先生が、その生徒の両親を殺すはずがないでしょ?」

 生徒1「れいちゃんはなんて言ってるの?れいちゃんにも会えんくて、もうなにがなんやら」

 泣き崩れる。

 慰める他の生徒。

 鶴丸「ごめんね。麗子ちゃんには当分会えないの。でもね、みんなの気持ち、ちゃんと麗子ちゃんと竹内先生      に伝えとくから。じゃ、麗子ちゃんのことについて教えてくれる?」

 生徒2「れいちゃんはとっても頭がよくって、演技も上手くて」

 鶴丸「何か変わった様子はなかった?」

 生徒3「『変わった』っていうか、『飛びぬけて』ました。大食いやし」

 鶴丸「大食い?」

 生徒2「そうそう。フードファイターって渾名ついてたしな」

 生徒1「れいちゃん、いつもお昼は学食なんですけど、必ずご飯は大盛り2杯食べてて」

 鶴丸「えー。それであの体型、羨ましいはね」

 生徒3「そうなんです。でも、ダイエットと腹筋を鍛えるために、徒歩通学してました」

 鶴丸「徒歩通学って、あの距離を?バスでも相当かかるわよねぇ」

 生徒1「えぇ。片道一時間半はかかるってゆうてました」

 鶴丸「そりゃ太らないわけだ」


 鶴丸検事室

 太田「学生とおしゃべりしてるヒマがあったら、ご自分の仕事をなさってください」

 鶴丸「被疑者の関係者から話を聞くのも大切な仕事よ」

 太田「検事の被疑者は竹内ひとりじゃないんですよ。こんなにたくさんの被疑者が、起訴・不起訴の判断を待      っているんですよ、検事」

 鶴丸「そんなこと、太田さんに言われなくてもわかってるわよ」

 太田「わかってらっしゃる方の振舞いとは到底思えませんがね」

 鶴丸「あなたと不毛な議論しているヒマはないの。たくさんの被疑者が私を待ってるもんで。ごめんあそばせ」
 


 鶴丸「竹内さん、これ何だかわかる?」

 デスク上の紙束を指す。

 無言で首を横に振る竹内。

 鶴丸「署名です。あなたの教え子たちの。演劇部の部員たちが集めたそうよ。『竹内先生を不起訴にして        くれ!』って、これもって地検に乗り込んできて。そこの応接室で直談判されたわ」

 無表情の竹内。

 鶴丸「無論、そんなことは起訴・不起訴の判断材料にはならない。でもね、竹内さん。あなたの人となりは伺       える。あなたは、教え子に手を出す破廉恥な教師じゃない。何を隠してるの?」

 竹内「だから何度も言っているように、僕は彼女を純粋に愛していただけですよ。愛故の犯行だったんです」

 鶴丸「確かに、あなたは吾妻麗子さんを『愛して』いたのでしょう。でもそれは、性愛ではなく、『教師の生徒に      対する愛情』だったんじゃありませんか?あの夜、本当は何のために吾妻さん宅へ行ったんですか?      そこで何が起こったの?」

 竹内「誰がなんと言おうと、僕の主張は変わらない。僕がやりました。早く起訴してくださ…うっ!」

 倒れ込み、苦しむ竹内。

 鶴丸「竹内さん?しっかりして。竹内さん!」



 京都警察病院

 医師「膵臓がんですね。それもステージⅣ、末期です」

 鶴丸「余命はあとどれくらい?」

 医師「そうですね…。もってあと半年でしょうか…。本人も知っていたはずですよ」

 鶴丸「そうですか…」


 鴨川沿いを一人歩きながら事件を整理する鶴丸

 鶴丸「竹内は余命半年。それは本人も自覚していた可能性が高い。だとしたら、誰かを、例えば吾妻麗子の       罪を被ってそのまま死ぬつもりなのかもしれない。でも、だとしたら、吾妻麗子が両親を殺す動機は?      うーん…」

 鶴丸の携帯の着信音が鳴る。

 鶴丸「もしもし?」

 漆原「もしもし、あやさん?今大丈夫?」

 鶴丸「大丈夫だけど。どうしたの?電話なんて珍しいじゃない?」

 漆原「どうもこうも無いねん。今夜の『来夢来人』の公演、お父ちゃんと一緒に行くはずやってんけど、急に仕     事が入ってしもて。他当たってもみんな予定入っとって、もうあやさんしかおらへんねん。仕事忙しいや      ろし、あんまり興味なさそうやったけど、ダメ元でかけてみてんけど、どない?」

 鶴丸「『来夢来人』の芝居!い、行くっ!」

続く