2次創作 京都地検の女 「裏の顔」4(終)


も合わせてどうぞ。



 翌々日。吾妻邸にて、実況見分

 竹内「検事さん、僕は本当のことを供述しているのに、時間の無駄です。こんなやり方では、刑が確定する前     に僕の命が尽きてしまいますよ…」

 鶴丸「たぶん、今日で終わりますから、ご心配なく。では、始めましょうか。お願いします」

 被害者役の3人が入ってくる。

 竹内「溝端、京子、それに、麗子君まで…。検事さん、これは一体どういうことですか!」

 思わず車いすから立ち上がる竹内。そして、倒れこむ。

 鶴丸「竹内さん、座っていて下さい。では、これより実況見分を始めます。皆さん、所定の位置についてくだ       さい」

 竹内「やめろ!茶番だ!」

 鶴丸「いいえ、やめません!竹内さん、あなたがここを訪れた状況をもう一度確認します。まず、あなたはこ      この居間に通されたんですね?」

 竹内「え、えぇ。それで、いきなり彼女の父親に叱責されました。『よくも大事な娘をおもちゃにしてくれたな』と。     そして、母親は『警察に被害届を出す』と。かっとなって揉み合いになり、台所から包丁を持ち出しました。    気づいた頃には、父親も母親も亡くなっていました」

 鶴丸「吾妻さんは麗子さんのことを『大事な娘』と仰ったんですか?」

 竹内「えぇ…」

 鶴丸「本当に?でも、このおうちを見る限り、彼女は大事になんてされていなかったようですよ?」

 竹内「は?」

 鶴丸「見てください。このリビング。写真がいっぱい飾られてますね。でも、麗子さんが写っているものはただ      の一枚もない。靴だって、服だって、ご両親のものがほとんど。彼女の私服はジャージとTシャツだけ。      おかしいですね?大事な娘なのに」

 竹内「やめろ。こんなことに何の意味がある?僕が犯人なんだよ!僕を起訴してくれ!」

 麗子「もういい!」

 竹内「良くない!君は黙ってなさい!」

 麗子「もういいの!検事さんには全部わかってるの!だから、だから私、ここに来ることにしたの!」


 回想。麗子の病室にて。

 麗子「検事さん。先日は、ごちそうさまでした」


 麗子「は?」

 鶴丸「徒歩通学、リビングの写真、安物の私服、消えた夏服」

 麗子「…」

 鶴丸実況見分、来てくれるわね?」


 現在に戻る。

 麗子「両親を殺したのは、私です!」

 竹内「ちがう!この子はショックで妄想を言っているだけだ。僕だ、僕がやったんだ!検事さん、信じてくだ       さい!」

 鶴丸「まだわからないの!今の彼女を苦しめているのは、あなたよ!彼女だけじゃない。あなたの教え子た      ちも、ここにいる溝端さんも天音さんも。みんな、あなたのせいで苦しんでいるの。麗子さんに、本当のこ     とを話させてあげなさい」

 車いすから、地べたにうつ伏せ、嗚咽する竹内。

 麗子「検事さんのご指摘の通りです。私は『大事な娘』なんかじゃなかった。この家のお荷物だったんです。      私が2歳の時に、母が下の子を身ごもって。男の子だったそうです。両親ともに後継ぎが出来た、と大      喜びだったそうです。ところが、まだ何もわからない私は母に抱きついて、母はバランスを崩して転倒し      ました。その時のショックで母はその子を流産し、二度と子どもの産めない体になってしまいました。物      心ついたころには、私は常に両親から『人殺し』と呼ばれていました。私の誕生日は祝ってくれたことな      いのに、弟の出産予定日には毎年お祝いをしていました」

 鶴丸「食事も十分に与えてもらっていなかったのね?」

 麗子「はい。母は自分たちの分しか作ろうとはしませんでした。外で食べないわけにはいかないので、その分     のお金はくれました」

 鶴丸「だから、『フードファイター』」

 麗子「えぇ。徒歩通学なのも、『あれくらいの距離なら歩ける』と。『歩けないのなら帰ってこなくてもいい』と。      私だって、こんな家、帰りたくなんかなかった…。でも、外出しているときは、仲の良い家族を演じさせら      れていました。名門校に入れられたのも、塾に通わせてくれていたのも、全て自分たちの見栄のためだ      けでした」

 鶴丸「表向きは、誰もがうらやむ家庭…。だから、誰も気づけなかったのね?」

 麗子「はい。私もあきらめていました。でも、竹内先生は違った」


 回想。

 麗子「先生、話って、何?」

 竹内「お前、ちゃんと飯食ってるのか?」

 麗子「え?何言ってんの、当たり前じゃん。だって私、フードファイターよ」

 竹内「だったら、なんでそんなに痩せている?」

 麗子「先生だって、知ってるでしょ?ほら、毎日往復三時間歩いてるから、ね」

 竹内「君の運動量と食糧摂取量を元に計算すると、どうも体重が合わないんだよ。3食あのような食べ方をし     ていては」

 麗子「大食いの女の子、みんな痩せてるでしょ?テレビ出てる子、知らないの?」

 竹内「だったら、何故合宿や修学旅行になると、途端に一食の量が普通になるんだ?」

 麗子「え?」

 竹内「家で食べさせてもらってないんじゃないのか?毎日徒歩通学しているのは、交通費を出してもらってい     ないからじゃないのか?私には隠さなくてもいい。全部話して、楽になれ」
 

現在に戻る。

 麗子「私のこと見抜いたの、竹内先生と検事さんだけです。竹内先生は私が心理的に虐待されていることを      知った後も、何もせずにいてくれた。今までと同じように接してくれて…。それが、とてもありがたかった。     誰か知ってくれている人がいる、そう思えただけで、世界が違って見えました」

 鶴丸「じゃあ、あの日は、何で?」

 麗子「私が明るくなったのが、両親には気に食わなかったんじゃないですか?ずっと学年トップだった成績が、    一度風邪をひいたときに2位に落ちたのを理由に、演劇部を辞めるように言われて。それで…」

 竹内「それで、演劇部を続けさせてもらうよう、お願いするつもりでした…。でも、会議が少し延びてしまって…。    もし、あの日時間通りにここへ来られていれば、あんなことには…」
 

 回想。

 父「自分から申し込んでいながら遅刻とは、無礼者だな」

 母「一体、何の話なのよ、全く…。あんた、もしかして、余計なこと話したりしてないでしょうね?」

 父「どうなんだ?」

 麗子「何も話してない。演劇部を続けさせてもらえるように、話をしてくれるだけだよ」

 父「先公が何出しゃばってるんだよ。おい、ただの顧問が生徒のために、わざわざ出向いたりするのか?もし    かして、そいつ、お前に気があるんじゃないのか?」
 
 母「全く、破廉恥ね!」

 スッと立ち、ゆっくりとキッチンへと向かう麗子。包丁を取り出すと、二人に悟られないようにそっと背後に忍   び寄る。

 まずは、父親の心臓を後ろから一突きし、異変に気づいて逃げ出す母親を追いかけ、左肩に手をかけ、右の  頸動脈を掻き切る。

 (息絶えた両親に吐き捨てるように)

 麗子「あんたたちなんかに、あんたたちみたいなクズに、竹内先生を悪く言う資格なんて、無い!」
 


 竹内「ごめんくださーい。吾妻さん?会議が延びてしまって。あがってもよろしいですか…う、うわぁ!」

 腰を抜かす竹内。

現在に戻る。

 竹内「僕がここについたときには、血まみれの遺体と血まみれの麗子君がいました。必死で頭を巡らせて、       今回の筋書きを作りました」

 鶴丸「痴情のもつれであなたが吾妻さんたちを殺し、彼女を襲おうとして、交番に逃げ込まれ、そこで捕まる」

 竹内「えぇ。」


 回想。

 竹内「いいか、気を確かに持って、僕の言う通りにするんだ」

 麗子「え?」

 竹内「まずは、着替えなさい。制服の変えはあるかい?」

 麗子「はい」

 竹内「だったら、それに着替えなさい。今着ているのは、先生が始末する。返り血も流しておきなさい。先生は     家に帰って処分しないといけないものがあるから、一端ここを出る。私が帰ってきたら、揉み合いになる      んだ。本気でやるから、多少ケガは負うけど、それは仕方ない。ある程度やったら、君は近くの交番に逃     げ込みなさい。私はそのナイフをもって君を追いかける」

 麗子「それじゃぁ、先生が」

 竹内「私は大丈夫。どうせ、この先長くないんだ…」

 麗子「え?」

 竹内「いいから、言うとおりにするんだ。一世一代の大芝居だ。麗子君、君なら大丈夫!さぁ、早く!」

現在に戻る。

 鶴丸「処分しなければならないもの、というのは、これのことですね?」

 竹内「どうして、それを?」

 鶴丸「日記の存在を教えてくれたのは京香さんです。でも、どこにあるのかわからなかった。燃やしたか、捨      てたかもしれないとも思いましたが、慎重なあなたのことだから、無造作に捨てることはしないと考えた      んです。燃やすにしても、場所も時間も無かったはず。そうなると、どこかに隠すしかありませんよね?      だったら、どこに隠すのか。この日記、奇しくもあなたが作り続けている『天音京香全集』と全く同じノート     のようだったので、『来夢来人』のライブラリーを調べさせてもらいました」

 竹内「木は森に隠せ、ですよ。まさか『来夢来人』が調べられるなんて、ゆめ、思いませんでした…。だったら、
    血まみれの制服も見つかったんでしょ?」

 鶴丸「えぇ、それは衣装倉庫のゴミ箱から」

 竹内「あそこなら、血まみれの服が出てきても、血のりの着いた衣装だと思いますからね。それに、丁度今や     っている舞台にも、そういうシーンが出てくるので」

 鶴丸「日記、読ませてもらいました。彼女が両親から虐待されていたことが書かれていたから処分する必要      があったんですね」

 竹内「えぇ、それに僕と彼女がやましい関係でないこともばれてしまいますからね…」

 立ち上がり、竹内の頬を平手打ちする京香。

 京香「ばかっ!何でこんなことしたの…。私がどれだけ心配したと思ってるの?もう長くないから?余命が短       いんだったら、だからこそ、その時間を大事に、精一杯生きなきゃいけないんじゃないの…。全く、あな      たらしい」

 鶴丸「検事として、今回あなたがやったことは到底許せない。でも、一人の人間としては…あなたを、尊敬し       ます。こんなこと、できることじゃない。そんなあなたに与えられた時間が残り少ないなんて…本当に、      残念でなりません」

 成増「吾妻麗子、君を殺人容疑で逮捕する」

 両手を差し出す麗子。

 成増「そんなもん、無くても逃げないだろ?」




 一年後、竹内徹の葬儀会場にて。

 鶴丸「宣告の倍近く生きられたんんですね?」

 天音「えぇ。看病するために仕事を休むって言ったら、こっぴどく叱られました」

 鶴丸「それで、入籍を?」

 天音「はい。それも最初は断られたんですけど、私がどうしてもって。どうせ、他の誰かと結婚するつもりはあ      りませんでしたから」

 鶴丸「じゃぁ、最期は看取れなかったの?」

 天音「いえ。たまたまこの間撮影が京都だったんで、仕事を休まずお見舞いに来られました。彼が息を引き       取ったのも、ちょうど撮休日で」

 鶴丸「そう…。神様が見方してくださったのかもしれませんね」

 天音「見てください、この参列者の数。彼の人望をあらわしているでしょう?」

 鶴丸「えぇ。本当に惜しい人を亡くしました」

 天音「短い間だったけど、彼の最期の時間を一緒に過ごすことができて、彼の奥さんになれて、私とても幸せ     です。私ね、出所後の麗子さんを引き取ろうと思って」

 鶴丸「え?」

 天音「もし彼が生きていたら、そうしただろうって。彼女が良ければ、の話ですけどね。もしそうなったら、私の     付き人になってもらおうかなって」

 鶴丸「大変な道程になると思いますよ」

 天音「えぇ。でも、私ならできると思います。だって、竹内徹の妻ですから!」



終わり


いかがでしたか?
最後までお付き合いいただいて、ありがとうございますm(_ _)m