やっと最終回ですよ!
いやー、ここまで長かったっすねー。
最終回、結構長いので早速どうぞー。
月島中央署・玄関
いつもの大人しい出で立ちで署を後にする相葉。
糸村「恵さーん」
立ち止り、振り向く相葉。
相葉「何ですか?」
糸村「お返しするの、忘れてました」
ストラップを差し出す
糸村「それとも、捨てておきましょうか?」
相葉「あっ」
手を差し伸べる。
糸村「僕に3分だけ時間をください」
相葉「は?」
糸村がストラップを持ったまま続ける。
糸村「このストラップ、フィルムがくしゃくしゃですよね?」
相葉「無造作にポーチに入れてたからじゃ、ないんですか?」
糸村「そうでしょうか?逆じゃないですかね」
相葉「逆?」
糸村「科警研に僕の友だちがいて、彼は僕の無理難題何でも聞いてくれるんですよ。で、このストラップの指紋も調べてもらったんです」
相葉「はぁ…」
糸村「で、あなたと仙堂刑事の指紋が検出されました」
相葉「一緒にドームシティに行った時に買いましたから」
糸村「大事なのは誰の指紋がついているかではなく、指紋のつき方なんです」
相葉「つき方?」
糸村「あなたの指紋、ベタベタついてました。それもしっかりと」
相葉「話が見えませんが…」
糸村「その友だちに聞いたところ、頻繁に、しっかりと握りしめていないとこういう指紋のつき方はしないそうです。恵さんにとってこのストラップ、とても大切なものだったんじゃないんですか?」
相葉「あなたに何の関係があるんですか!」
糸村に背を向ける。
糸村「いつもの恵さんに戻ってください」
相葉「私はどうしょうもないアバズレ女のまま姿を消さなきゃいけないの!仙堂さんにとっても、私にとっても、その方がいいのよ…」
糸村「本当にそうでしょうか?」
仙堂がやって来る。
糸村に背を向けたまま、気づかず話始める。
相葉「『一番良く効く栄養ドリンクください』って薬局に来たの。げっそりした顔して。私が勧めたのをその場で空けて。飲んだ端から『何だか元気が湧いてきた』って。可笑しいでしょ?そんなに即効性高いはずないのに。私、思わず笑っちゃった。あんなに笑ったの、久しぶりだった」
「そしたら、次の日もまた同じのくださいって来て。『連日飲むのにはきつすぎる』って言ったら、『じゃぁ、毎日飲めるの下さい』だって。ふふふ。あぁ、この人、大変な仕事に就いてるんだなぁって。世の中にはこんな男の人もいるんだなぁって。棚橋も援交してた相手の男たちも、みんなろくでもない連中ばっかりだったから、仙堂さんみたいな人は初めてで…」
「最初はただのお客さんだったんだけど、そのうち、毎日仙堂さんに会えるのが楽しみになって。それこそ一言二言交わすだけだったけど、私にとってはそれだけで十分だった。気がついたら、好きになってました。だって、警察官だなんて知らなかったから。知ってたら、好きになんかなってなかった…。もみの木で仙堂さんが警察官だって知った時は、もう遅かった。気持ちを抑えることができませんでした」
「いつか本当のことを言わなきゃ…、そう思ってるときにデートに誘ってもらって。あの時に断るべきだったんですけど、うれしくて。本当に楽しかった。今まで、良いことなんて一つもなかったけれど、生きててよかったって、初めて思いました。もしかしたら、私の過去もばれずに済むかもしれない。棚橋に無理矢理彫らされた刺青も、たまったお金で消すことができるかもしれない。そんな風に、自分でも信じられないくらい楽観的になって、昔の友だちに電話までして。でも、幸せはそう長くは続きませんでした…」
回想
棚橋「おう、恵。長いこと見んうちにええ女になったなぁ」
相葉「あんたとはもう関係ない。ほっといてよ」
棚橋「そんな大きい口、いつまで叩いてられるかな?」
相葉と仙堂が写った写真を見せる。
棚橋「お前みたいな女と警察官とつきおおてたらどないなことになるか、楽しみやなぁ」
相葉「何が望みなの?」
棚橋「俺はお前の体が忘れられへんのや…」
現在に戻る。
相葉「棚橋のいいなりになるしかなかったんです。一生懸命働いて、勉強して、やっとここまで来たのに…。今まで築き上げてきたものが、音を立てて崩れ去っていきました。毎晩、そのストラップを握り締めて泣いてました。あの一日が、私にとって全てだったから…」
糸村「あの日、棚橋さんの部屋に行ったのは、自殺するためだったんですね?」
相葉「はい。棚橋は私と仙堂さんとのことを黙っているかわりに私に関係を強要したのに、今度は仙堂さんを脅すつもりでした」
回想
『もみの木』の裏口にて。
相葉「約束が違うやない」
棚橋「約束?は、何のことや?」
相葉「そんなこと、絶対やりたない!」
棚橋「ええよ?それやったら、今からこの写真、警察の上の方に持って行くさかい」
相葉「やめてよ!」
棚橋「それやったら、俺の言う通りにせんかい!」
現在に戻る。
相葉「棚橋は美人局まがいのことを私にさせるつもりでした…。仙堂さんを巻き込まないためにも、もう死ぬしかない、そう思いました。おかしいですよね、まだ出会って間もないのに。でも、初めて本気で好きになった人だから。愛する人を守るためだもの、命を落とすことなんてちっとも怖くなかった。だけど、ただ死ぬだけだったら、死に損でしょ?だから、アイツを陥れる計画を考えたんです」
糸村「棚橋さんの部屋で毒を飲んで死に、その罪を棚橋さんに着せようとしたんですね?」
相葉「えぇ。服毒死は自殺か他殺か判別が難しいですから。それに、『棚橋に脅されてヒ素を購入した』と、うその日記まで用意しました。後は、いつ決行するか、だけでした。死ぬ前にもう一度だけ、仙堂さんに会いたくて。でも銀行強盗が起きて、なかなか会えなくて…。本当は事件が解決してから決行するつもりでしたが、思いがけず仙堂さんと会うことが出来て。もう思い残すことは、ありませんでした」
糸村「仙堂刑事と分かれたその足で、棚橋の部屋へ向かったんですね?」
相葉「えぇ。今度仙堂さんに会ったら、命が惜しくなってしまいそうな気がして…。それに、あの時なら、幸せな気分のまま死ねただろうから…」
仙堂「恵さん!」
相葉「仙堂さん、いつから…」
駆け寄り、恵を抱きしめる仙堂。
仙堂「何も気づいてあげられなくて、悪夢から目覚めさせてあげられなくて、すまない…」
相葉「私の方こそ、ごめんなさい」
振りほどく
相葉「仙堂さん、楽しい夢をありがとう。体に気をつけて、お仕事頑張ってくださいね。糸村さん、それ…」
ストラップを受け取る。
相葉「それじゃ…さようなら」
恩田の部屋から棚橋のものと思われるPCとスマートフォンが押収された。そこには、恐喝のネタとなるおびただしい数の写真や動画が保存されていた。
また、恩田の供述により、棚橋殺害に使用されたナイフは付近の川底から、また銀行から強奪した現金5000万円は駅前のコインロッカーからそれぞれ発見され、事件はここに終焉を迎えた。
そして、仙堂卓巳の胸ポケットからはいつの間にか“ストラップ”は消えていたが、それを指摘する者は誰もいなかった…。
半年後
月島中央署・刑事課
水沢「ちょっと、こないだの通り魔事件の報告書の担当、誰?まだなんだけど」
糸村「それなら、確か仙堂さんだったはずですよ?」
水沢「あれ、仙堂は?」
二宮「トイレじゃないですか?」
水沢「ったく…。出すもん出してから行きなさいよねー」
佐久間「『出すもん出してから』出すつもりなんじゃないですか?」
薄ら笑いを浮かべる一同。
水沢「何くだらないこと言ってんのよ…」
遠山「それならさっき、仙さんプリントアウトして引き出しに入れてましたよ?たぶん確認してから提出するつもりだったんじゃないですかね?」
水沢「待ってらんないわよ」
仙堂のデスクの引き出しをあさる。
水沢「もう…どこに入れたのよ…あっ」
見覚えのあるストラップを見つけて、思わず手を止める。
水沢「ちょ、ちょっと」
廊下へ出る。
二宮「課長、どうしたんですか?」
佐久間「課長も『出すもん出してから』もらう気になったんじゃない?」
廊下
トイレから出てくる仙堂。
仙堂「あれ?課長、どうしました?何か嫌なことでもありましたか?」
水沢「え?何が?」
仙堂「いや、だって。今、泣いてましたよね?」
水沢「ちょ、ちょっとざるそばのわさびが多かっただけよ」
仙堂「冬にざるそばなんか食べるからですよ。…あ、報告書!」
水沢「あんたがさっさと報告書出さないのが悪いのよ!」
仙堂「は?」
某薬局にて
男性客「これください」
相葉「これ…」
客「何か?」
相葉「いえ。このドリンク、とてもキツイので、連日飲まないように気をつけてくださいね」
客「あぁ、どうもご親切に」
相葉「いえ、仕事ですから。お買い上げ、ありがとうございます」
客が去った後、相葉は白衣のポケットからストラップを取り出し、胸元でそっと抱きしめた。
~終わり~
ハッピーエンドにしてあげられなくて、ごめんよー(><)
でも、仙堂さんこんなに惚れられて、それだけでもよかったんじゃね?
中盤があまりにもかわいそうだったので、初版よりも若干恵のセリフを盛ってみました。
ちょっとやり過ぎたかもしんない…。
そう言えば、本編でも仙さん、めっちゃかわいそうなシーンありませんでした?
あんまりはっきり覚えてないんですけど、遠山さんと二人で学校に聞き込み(?)に行った時に、遅刻ギリギリの女子高生が学校のフェンス乗り越える時にたまたま近くに立ってて、「スカートの中見たでしょ!警察呼びますよ!」言われて、その場にいた遠山さんが「僕が警察です」って言ったら「この人捕まえてくださいよー!」ってなって…。
やっぱり「変質者キャラ」なのね(笑)