オリジナル小説 「うそ」1

初めていらっしゃった方で今後も遊びに来てやろうかと思って下さる大変奇特な方は是非「ぼくようびのトリセツ」(https://blogs.yahoo.co.jp/uzukinokimi/36144883.html)も合わせてお読みください。
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僕蔵さんのファンになったばかりで、どの作品からみたらいいかわからない、という方は当ブログの「正名僕蔵さんの出演作品一覧(https://blogs.yahoo.co.jp/uzukinokimi/36414279.html)」を参考になさっていただけると幸いです。

12月の初めにふと“おりて来た”コチラのお話。

一言で申せば「既視感のパッチワーク」

「どっかで見たことある~」

みたいな部分が次々に出てきます。

あの、素人の文章ですからね。それもまぁ、致し方ないということで一つよろしくお願いします。

今回は主人公のモデルが僕蔵さん。

って言っちゃうと、若干(いやだいぶ?)失礼な描写が含まれますが、「オトナ高校」の設定とか「科学と人間生活」で本人に「薄毛薄毛」連呼させてたことに比べればまぁ、大したことないかなと…。

あと、ぎーやなさんの割には結構頑張りました(//▽//)

お話の整合性は置いといて、“僕蔵さんにぴったり”ってところは今回もうまくいってるんじゃないかなーと。
でも、そうじゃないんだよね。僕蔵さんの方がオールマイティーだから“イケメンホスト”とか以外なら大抵はハマっちゃうんでしょうね(笑)

ではでは、どうぞ~^ ^




 橘紀子はその出だしに圧倒されていた。“その”というのは、彼女がつい今し方ひょんなことから入手するに至った、一冊の手記のことである。
 
 「ベルリン支社?」
 「そうだ」
 「わ、私が希望したのはワシントン支社ですよ」
 「知ってるよ」
 「だったら何で…」

 紀子はある通信社に所属する記者で、一か月ほど前にドイツ・ベルリン支社に特派されたばかりだった。
 その日、彼女は現地で知り合ったドイツ人の友人に『面白いものが出て来たから見せたい』と家に招かれていた。
 その友人によると、実家の倉庫を整理していた際、百年ほど前のものと思しき日記帳が出てきて、しかもどうやらそれは、当時その家に下宿していた日本人によって書かれたものであるらしいとのことだった。
 その帳面には日本人の男女が写った古ぼけた写真が挟まれていた。友人曰く、その女性の方がノリコに良く似ている、とのことだった。
 ふくよかな頬、くりっとした大きな瞳、少し丸みを帯びた鼻、小ぶりな唇…確かに、どことなく似ているような気もしないではなかった。ただ、ドイツ人から見れば日本人の顔など皆同じに見えるのだろう、とも思える。なぜなら、彼女にとってはドイツ人の顔が、そうであるからだった。
 そして、その写真の男性がこの手記の筆者であるらしかった。確かに、筆跡は彼のもののような気がした。会ったことのない、それも百年以上前の人物の筆跡などわかろうはずもなかったが、写真から漂う彼の人となりと、生真面目そうな筆跡がぴたりと符合するような気がした。
 写真の裏側には手記と同じ筆跡で“大正四年長月二十日 スーツ新調の記念”と記されている。

 紀子は手記を受け取ると、友人宅を後にし、ブランデンブルグ門近くにある一軒のオープンカフェで昼食を摂った。そして、食後のコーヒーのお供に、と軽い気持ちでその手記を広げたのであった。
 当時の日本やドイツの生活様式などが伺えれば、などという安易な好奇心、また何か記事のネタになるかもしれない、という浅はかな欲をもって、たかが日記帳であろうその表紙をめくったのである。だがしかし、その出だしの一文は、紀子にとって全く予想外のものであった。
 そして、その衝撃から続きを読むことを一旦止め、気持ちを切り替えて再び読み進めることにしたのである。
 その手記の内容は以下の通りである。


 『私は卑劣極まりない人間である。己の下劣さに、吐き気を催した程だ。私は、かくも卑しいやり口で、彼女を娶ったのである。
 私は子どもの頃より「聖徳太子の生まれ変わり」と周りから持て囃されていた。幼き頃より教わるともなく『論語』を暗誦し、同い年の子らが漢字を覚え始めた頃、私は横文字を読み始めていた。
 そうであるから、頭脳の面で褒められることは私にとって決して喜ばしいことではなかった。むしろ、辛かった。
 私にとってそれは『他に褒められたところが全くない』と言われていることと等しかったのだ。実際問題、私に頭脳面以外において長けたところは何一つなかった。
 運動は苦手だし、人間性も良いとはお世辞にも言い難い。何より、器量がまるで駄目だった。と、いうよりも容姿に自信が持てない、という部分が私を運動音痴にし、性格をも駄目にしてしまったのだと思う。
 だから私は生まれてから三十数年間、恋というものから一定程度の距離を保って生きて来た。女性という生き物などこの世に存在しない、知らぬ存ぜぬ、という態度で日々を送って来た。
 だから、より一層勉学に励んだのだ。私は、私の生涯を全て、独逸文学の研究に充てることとした。
天賦の才能と己が欲求の昇華により、私は30代半ばにして自らの学者としての地位を確固たるものにしていた。
 拒まれるのが怖くて、無いものとしたはずの女性は、しかし、ある日突然、向こうからその存在を私の喉元に突き付けて来たのである。

 「そのお召し物、素敵ですね」
 
という言葉を従えて。
 
 私は昼下がり、勤めていた大学近くの公園のベンチに腰掛けて思索に耽ることを日課としていた。そこに通る人々を見るともなく見つめたり、風にそよぐ木々の葉の擦れる音を感じたり、木漏れ日を顔に当てたりしながら、ぼぉっと頭を整理したり、あるいは考え詰めたり、そういった何とは無い時間が、私の哲学にはかけがえがなかった。
 その日もいつもの通り、一人ベンチで佇んでいた。
 紅葉する木々の色合いに気を取られていると、私はふっと膝の上に軽い感触を覚えた。見ると、白いつば広の女性用の帽子が、まるで陳列棚に置かれているが如く、ぽんと己が膝に乗っかっていた。
 「ごめんあそばせ」
 声のする方を見やると、遠くの方から袴姿の女学生が息を切らしてこちらへ駆けてくる。やっとのことで私のところへ辿り着いた彼女は、息があがってしばらく何も話せないでいた。
 ようやく落ち着くと、
 「急に風が吹いてしまって」
 と申し訳なさそうに言った。
 「どうぞ」
 私が帽子を差し出すと、また彼女は
 「ごめんあそばせ」
 と言って帽子を受け取り、去って行った。
 彼女は特別美人というわけではなかったが、色白で全体的に丸みを帯びた姿は実に愛嬌があり、一方で理知的な美しさも兼ね備えていた。
 彼女の後姿を見つめながら、胸元がざわつく感覚を覚えかけたその時、彼女はくるりと向き直り、再びこちらに戻って来た。
 何事かと考える間もなく、彼女は
 「そのお召し物、素敵ですね」
 とこちらが全く予期せぬことを言った。
 「これかい?」
 「えぇ。よくお似合いですわ」
 そしてまた、小走りに己が友人たちの元へと戻り、もう一度こちらに会釈して、立ち去って行った。

 頭脳以外のことで他人に褒められたのはこれが初めてだった。しかも、今まで全く自信が持てなかった容姿を褒められたことにより、私の中で彼女に対して一瞬芽生えた何か、は確固たる恋心となってしまったのである。
 そして、この時着用していたツイードのスーツが、私の生涯のお気に入りとなった。
 
 その日を境に、私の日課は思索以外の目的に行われるようになった。
 すると、今まで全く気がつかなかったのが不思議なくらい、『帽子の君』はほぼ毎日この公園を、『私の』ベンチの前を通り過ぎて行った。
 だが、かの君は友人とのおしゃべりに夢中で私など眼中に無い様子であった。あの褒め言葉も、気まぐれに口をついて出ただけのことであろう。そんなことはよくわかっていた。だが、わざわざ戻って言いに来た、ということに幾許かの期待を抱いていた。無論、それとて、礼の変わりに少し気の利いたことを言っただけに過ぎない。彼女が己が前を通り過ぎる度、そのような堂々巡りを繰り返していた。
 事の真相など、どうでも良かった。ただ、友だちと楽しげにおしゃべりする彼女を見るだけで、私は今までに覚えたことのない心地よさを感じ、夜、布団に潜り込む度にその横顔を思い出しては、一人笑みを浮かべ眠りについていた。
 
 そんな日々が半年ほど続いた頃だろうか。
 青葉が繁り、汗ばみ始めた皐月中旬、ある日を境に『帽子の君』はぱったりと姿を見せなくなった。他の友人達は今までと同じように私の前を通り過ぎるのに、その中からかの君だけがすっぽりと抜け落ちてしまったのだった。最初は、風邪でも召されたのだろう、くらいに思っていたが、暑さが増してもなお彼女の姿が戻ることは無かった。

 私はいてもたってもいられず、女学生のお団子が私の前を通り過ぎる時にすっくと立ち上がり、思わず声をかけてしまった。不審そうな顔をする彼女等に、私は顔から火の出る如くだったが恥ずかしさよりもかの君を想う気持ちの方が勝って、自分でも不思議なくらい積極的に、続けた。
 「あの、前に帽子を飛ばした子は…」
 「へ?あぁ、おときちゃん?」
 「おときちゃんと言うのかい?」
 この時初めて自分がかの君の名を知らなかったことに気づいた。
 「えぇ。それが?」
 「彼女、最近見かけないけれど…」
 「おときちゃんね、学校お辞めになってよ」
 「辞めた?なんでまた?」
 「えぇ、それが…」
 「あなた、お止めなさい。見知らぬ方に」
 「でも…」
 「きみちゃんは口が軽くていけませんわね。でも、まぁいいでしょう。お続けあそばせ」
 「おときちゃん、時子さんはご実家のお商売が駄目になってしまって、お勉強を続けられなくなられたの」
 「ご実家の住所を教えていただけますか?あぁ、僕は怪しいものじゃありません。そこの大学で独逸文学を教えている、渡邊尚(ひさし)というものです。お疑いなら、大学に行って確認されるといい」

 時子、実藤時子の実家は繊維業を営んでいた。だが、倉庫が全焼してしまい、多額の負債を抱え借金の返済に追われていたのだった。そして、奇しくもその実藤繊維のご内儀と我が叔母が古くからの友人であると、以前ちらと聞き知っていたのである。
 
 そして私はこのことを利用して、とんでもない謀を企てたのである。

~続く~