2次創作 相棒 「物理学者と猫~後日談~」 中

先の投稿で書くべきでしたが、このお話に関しては「相棒」的要素は皆無です。
あしからずm(_ _)m




遙が講師になって10年、堀井は准教授から教授に昇進し、それに伴い遙も准教授となった。

そのしばらく後、堀井が廊下を歩いていると遙が誰かと話しているのが聞こえた。

「ごめんね」
「いや…」

話の相手は心理学部の准教授、今井だった。彼は遙と同学年で学生時代は同じテニス部に所属する友人だった。

「私、物理と結婚したから」

かつて己が発したのと似たような言葉に堀井ははっとし、思わず立ち止まってしまった。

「そっか…すごいな、遙は」
「ううん。全然、すごくなんかないよ」
「え?」
「昔ね、すっごく好きな人がいたの」
「うん」
「でね、私こういう性格じゃない?だから、思い切って告白したのね」
「わかるわかる。遙って、隠し事とか出来ない方だもんね」
「そうそう。でね、そしたら…今と似たような事言われたの」
「ふーん」
「そう。で、『だったら、私も自分の道を極めてやろうじゃないか!』って、そう思っただけ」
「そっか。まだその人のこと好きなんだな?」
「え?ま、まぁね。でも、何で?」
「お前隠し事できないもん」
「ははっ。でも…今一番好きなのは、やっぱり物理かなー?」
「へー。さすが、結婚相手は違うねー」
「うん。私浮気はしない主義なの!」
「はっ、それじゃますます俺のつけ入る隙ないじゃん!」
「ま、そーゆーこと」
「仕方ない…俺も心理学と心中すっかな」
「心中って何よ」
「いや、やっぱ無理だな、俺には。他の人間探すわ」
「おいおい、それで心中はダメでしょ」
「わかってるよー。でも…」
「ん?」
「やっぱすごいよ、お前は」
「そ、そうかなー。あ、やばっ、早く研究室戻らないと!」
「あ、俺も!しっかしよくもまぁあんな変人教授につきあってられるなー」
「当たり前でしょ?だって、物理と結婚したんだもの」
「ははっ、そうだったな。じゃぁ」
「じゃぁ」

二人が去った後も堀井はしばらく動く気になれず、その場に立ち尽くしていた。

「ごめんなさい、遅くなりましたー!って、誰もいない…」

遙が研究室に戻ってしばらく後、ドアが開いた。

「おかえりなさい、先生。遅かったですね、もうすぐ役員会ですよ」
「え?あぁ…」
「資料、デスクに置いておきましたから」
「あの…千葉くん」
「はい、何でしょう?」
「いや…何でもない。じゃ、行ってくるよ」
「はい…変な先生。ってか、いつも変か」

堀井はどうしても、自分の気持ちに素直になることが出来なかった。いや、むしろこれが彼の本心だったのかもしれない。やはり、彼は遙に愛弟子のままでいて欲しかったのだ。


堀井は70まで大学で教鞭を振るった。
彼が退官した後も、遙はしばしば宅を訪問していた。

「ひぃー、相変わらずとっちらかってますねー」
「触るんじゃないぞ!どこに何があるか、わからなくなってしまうからな」
「わかってますよ。もとより、触りたくもないし…」
「今日は何だね?」
「この雑誌に掲載されているある論文に矛盾点を見つけたんですけど、先生のご意見も伺いたく…」
「もしかして、これかい?」
「え?先生もお気づきになられていたのですか?」
「あぁ。今解き直しているところなのだよ」
「じゃぁ、その間に何かお作りしときますねー」
「あぁ、いつも悪いね」
「先生は思考以外に何も出来ませんからねー」
「じゃぁ、僕は自分に唯一できることをしておこう」
「はいはい。どうぞ、ごゆっくり」
「あぁ、歳暮で肉をもらったんだ。すき焼きにでもしてくれないか」
「えぇっと、これですねー。うわ、上等なお肉。さすが元帝都大教授…って、この冷蔵庫絶望的に何も無い…。もう、すき焼きになさるおつもりなら、他の材料ぐらい買っといてくださいよー」
「いや、そろそろ君が来る頃だろうと思ったから」
「だったら尚更買っててくださいよっ。仕方ない、ちょっと行ってきますねー」

「先生?折角の松阪牛なのに、考え事しながら食べるなんてもったいないですよ?おーい、せんせー!」

肉を頬張りながら思案顔の堀井の顔の前で遙が手を振る。

「あ!そうか!ここがおかしいんだな!」

デスクに戻り、問題の論文を確かめる堀井。

「お召し上がりにならないんだったら、全部食べちゃいますよー!ほら、ほらほら…って、だめだこりゃ」

結局夕飯後も堀井はこの問題に取り組んでいた。
遙は自分の仕事をこなしながら堀井が問題を解き終わるのを待っていた。
ところが、案外時間がかかり遙はいつのまにかすっかり眠り込んでしまった。

彼女が目を覚ましたのは空がうっすらと白け始めた頃だった。

「え?うわっ!私、寝ちゃってましたか?」
「ようし、できたぞ!やはりこの理論は破綻していた」
「なんで起こしてくださらなかったんですかぁ」
「ん?あぁ、君、いたのかね…すっかり忘れていた」
「ちょっ…先生と違って、私は今日も授業があるんですからね!」
「早速、まとめなくては…」
「って、聞いてないし…。帰りたくても始発はまだだしなぁ…」
「ならついでに、朝飯も作っておいてくれないか。頭を使って腹が減った」
「作りませんっ!」

そう言って立ち上がると、自分の体から何かがするするとずれ落ちた。
それまで全く気づかなかったが、どうやら毛布をかけて眠っていたらしい。

「あれ?こんなのかけてたっけ…あっ」

堀井は素知らぬ顔で今解いたばかりの数式をまとめていた。

「もぅ…。おにぎりでいいですか?」
「あぁ。鮭でたの…」
塩むすびっ!」
「うめぼ…」
塩むすびっ!」
「せめて海苔…」
塩むすびっ!」
「致し方あるまい…」

~続く~



当初すきやきのくだりまでしか書いてなかったのですが、なんかふとおりてきまして。
蛇足、だったかな?

にしてもここでの先生、ちょっと甘え過ぎだぞっ!

駄目ですよ、こういう男の人は!

って、書いてるの私なんですけどもね(汗)