前回は、まぁ凄かったですね。
現実世界であんなことして許されるの、キムタクか小栗旬くらいでしょうかね(笑)
ここはぎーやなさんの脳内みたいなもんなんで、あしからずV
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その後千鶴は千葉出版に入社し、主力雑誌の担当記者となった。
その雑誌には陣野もよく寄稿しており、記事の依頼や催促は自然と千鶴の業務となった。
編集長の長谷川は陣野の同期で、二人の関係を把握しての計らいだった。
「相変わらず、ひっどい部屋だこと」
「絶対に片付けんなよ!」
「何で私がそんな所帯じみたことやんなきゃならないのよ。そういうのは奥さんにでもやってもらいなさい!」
「辛いこと思い出させんなよぉ」
「でも奥さん、ずっと籍入れたままなんて、仁さんのこと今でも愛してるのね、きっと」
「あー、違う違う。アイツは俺に復讐してんだよ」
「え?」
「俺が自由の身になるのが許せない、ただそれだけ」
「ほんとにそうなのかなー」
「でもな、俺は甘んじてそれを受け入れるつもりなんだ。一度は愛したヤツだから、最後のわがままは聞いてやろうってね。ちぃちゃんには、悪いけど…」
「何で悪いのよ。私もわかってつき合ってるんだから。気にしないで」
「すまない。けど…」
「ん?」
「今の俺には、お前だけだ」
そういうと陣野は後ろから千鶴を抱き締めた。
「仁さん…。さぁさぁ、遊んでるヒマ無いの。原稿!」
「後ちょっとだけだから、先ちょっと遊ばない?」
「遊ばない!原稿!」
「終わったら…遊んでくれる?」
「記事の出来による…かなぁ?」
「鋭意、頑張りまっす!」
二人の会話は基本的に荒っぽいものだったがウィットに富んでいて、その端々にお互いへの深い愛情が垣間見えるものだった。
二人にとっては口論も戯れの一種だった。
「編集長、仁さんから原稿取って来ました!」
「随分遅かったじゃないか」
「少々、手こずりまして…」
「原稿か?それとも…あっちの方か?」
「は?」
「石鹸の香りがするぞー」
「あはははー」
「あはははー、じゃねぇよ!」
デスクに置いてあった雑誌を丸めて千鶴の頭を叩く。
「いてっ」
「既婚者と言っても、もうウンと別居状態だから個人的なつき合いには口は挟まん。しかし…一応、公私の別はつけろな?」
「すみません」
その日の夜、千鶴は陣野とともに彼の自宅近くの居酒屋で一杯やっていた。
二人が会うところと言えば、ここかあの乱雑な部屋ばかりであった。
「バレた?」
「バレた?じゃないわよ、もぉ。その後私がどんな気持ちでオフィスにいたかわかる?」
「わからんな。何しろ、フリーが長いもんでね」
「聞いた私がバカだった…」
そうぼやくと千鶴はハイボールを煽った。
「だから言っただろ、風呂なんか入るなって」
「だって、色んなとこが、色んなもんでベチョベチョだったんだもん」
「ちょっとペロペロし過ぎた?」
「ペロペロじゃなくて、ベロベロでしょうが。あんなネチョネチョの体で社に戻れるはずないでしょ!」
「お前、さっきからオノマトペに悪意を感じるぞ」
「私もプロなの。日々的確な描写を心がけているもので」
「じゃぁ、もっとかわいい擬音語使えるような感じで、やり直す?“むにゅむにゅ”とか“ぽよぽよ”とか?今からどうだ?ん?」
「もう、仁さんみたいなヤツ、大っ嫌い!」
そう叫ぶと今度は陣野が飲んでいたビールのジョッキをひったくって飲み干した。
「でもね…仁さんは大好きなのっ!」
「おうおう、よしよし」
陣野が千鶴の横に移動し、わがままな愛猫をなだめる飼い主のようにその背中を撫でた。
「ほんと、バッカみたいっ!」
「まぁそう言わずに。よしよし、いい子いい子」
「もぉ、何でよー!」
千鶴は何より陣野が書く文章に心底惚れていた。
本来、生理的に受けつけられない類の男をその才能が故に恋慕していた。
女という生き物は往々にして才能のある男に惹かれるものである。一部、男の“才能の無さ”に惹かれる女もいるにはいるが、少なくとも彼女の場合は違っていた。
だが、ただその文才にのみ惹かれている、というわけでもなかった。
陣野仁という男の本質を見抜き、そこにたまらない魅力を感じとっていたのである。
彼女自身、そのことに気づいてはいたものの、自分の理想の男性像とはあまりにもかけ離れた中年男をこの上なく愛している自分に対して、矛盾や軽蔑、その他自分でも分類しきれない様々な葛藤を抱え、それが何かの拍子に時折爆発するのであった。
~続く~