オリジナル小説「或る男の場合」8

さてさて、年始も絶賛ぼくじょ中なぎーやなです。

仕方ないじゃん、つい最近なまぼくしてきたんだもん。

僕蔵さまの属性、ずっと“かわいい”だと思ってたけど、私が間違ってました。
“かっこいい”です。とっても。

“ペット”とか“だきまくら”とか言って、ほんとにすみませんm(_ _)m

お詫びのしるしに…ペットにしてください!(爆)

←謝罪の仕方がおかしい!


――――――――――

 半月後、千鶴は陣野の運転で関東某所の温泉地へと向かった。
 いつも賑やかな二人に似つかわしくなく、乗車後しばらく車内には沈黙が続いた。

 「長いことつき合ってたのに、ほんとにどっこも連れて行ってやれなかったなぁ」
 
 車窓を眺める千鶴に向かって陣野がこう切り出した。

 「ふーん」

 「会うといやぁ居酒屋か“物置小屋”くらいなもんで」

 「ふーん」

 「お前、人の話聞いてんのかよっ」

 「そっちこそ、人が静かに車窓を楽しんでるってのに…横から、ペラペラと」

 サイドミラーに写った彼女の瞳はうっすらとではあるが潤んでいる。

 「もしかしてお前…泣いてるのか?」

 「そんなわけ、ないでしょ!」

 「ほれっ」

 陣野がポケットからハンカチを取り出し、差し出す。
 それを受け取ろうと顔を背けたまま右手を差し出すと、陣野のハンカチから何かがするすると千鶴の手の中に落ちてきた。カーヒーターでのぼせた体にひんやりと心地いい。

 「何、これ?」

 「キーチェーンにでも見えるか?」

 「ペンダント?」

 それはルビーのペンダントだった。

 陣野は車を路肩に停め、千鶴の首につけてやった。

 「俺からの餞別だよ。指輪は、ほれ、シロクマさんにいいのもらうだろうからさ。それにルビーは誕生石だろ?」

 「いや、私は5月生まれだからエメラルドだよ」

 「じゃなくて…お・れ・の」

 「何それ?気持ち悪っ」

 「気持ち悪いって何だよ!」

 「安心して」

 急に落ちついたトーンになった千鶴に、陣野は改まって座りなおした。

 「私、あなたのこと、ずっと忘れない」

 「ちぃちゃん、今までありがとな」

 「こちらこそ、ありがとう」

 千鶴がそう言うと、陣野は長い季節の終焉へと再び車を走らせた。


 年が明けて間もない温泉地は東京からそう遠く離れていないにも関わらず、別世界のごとく雪景色だった。

 「素敵ねー」

 旅館の前に車を停め、降りるなり辺りを見回しながら千鶴が言った。
 車を旅館の人間に預け、陣野も千鶴の横に立った。

 「ちぃちゃん、雪好きか?」

 そう言うと、千鶴の肩に手を回す。

 「うん。私、都会っ子だから、雪見るとアガるのよねー」

 「俺は嫌いだ」

 「何で?」

 「俺の田舎は福井でなぁ。真冬にはもう、バカ程降るんだよ。それの処理が大変のなんのって…」

 「ふふっ。私、仁さんが福井出身だったなんて、今初めて知った」

 「そういう話もあんまりしなかったしなぁ」

 「そうねー。過去も未来もない、“その日暮らし”だったわね、私たち」

 「あぁ。でも、こうやって見てみると、雪も言う程悪いもんじゃねぇな」

 「お客様、お寒いですのでどうぞ中の方へ」

 旅館の番頭に促され、二人は屋内へと入って行った。
 ひっそりとした建物からはしかし、その歴史の長さからかある種の威厳のようなものが醸し出されている。
 狭い空間の割に幅広な階段を仲居に続いて上り、細い廊下のどん突きの部屋に案内された。


 「では、ごゆっくり」

 一連の説明を終え、仲居が去っていく。

 「仁さん、ここからの景色もなかなか風情があっていいよー」

 部屋の窓から下を覗きこむ。近隣の建物の屋根屋根に雪が降り積もった景色が温泉の湯気で曖昧模糊となっている。
 陣野はいつになくはしゃぐ千鶴を愛おしげに抱きしめた。

 「だめよ」

 「どうして?」

 千鶴は迷っていた。英はああ言ったものの、本当に彼の言う通りにしていいものなのだろうか?

 「今日、女の子の日なの」

 「えー、嘘だろ?」

 「うっそー」

 そう言うと千鶴はおどけた顔で振り向き、未だ驚き顔を戻せないでいる陣野に口づけた。
 結局千鶴は“残り少ない方”を尊重した。

 「彼女のバイオリズムくらい、把握しときなさいよね。まぁ、今日で終わり、だけど…」

 そう言った彼女の顔は切なく陰った。それは陣野が知る千鶴のどの瞬間よりも美しく、彼は前後不覚に陥った。

 どこから自分でどこまで相手かわからない。
 自分を取り巻く空間全てと一体になっていく感覚。

 空気、時間、湿気、黒髪、柔肌、吐息それら全てと混ざり合い、溶け合って一つになっていく…。
 そして一つになった途端、素粒子一つひとつが急激に元の物体へと収束して行った。

 陣野が我に返ると、千鶴はそそくさと浴衣に着替え部屋を出るところだった。
 女は切り替えが早い。

 「ちょっとお風呂行ってくる。だって…」

 「ベッチョベチョか?」

 「ううん。ギットギト」

 ふふっと笑うと、そのまま彼女は部屋を後にした。

 「人をゴキブリ扱いしやがって…」

 そう言うと、自身も浴衣を纏って窓際に腰掛け、一服した。


 「送ってけなくて、悪いな」

 「ううん。寝不足で仕事、大丈夫?」

 「俺はプロだぞ。2、3日寝なくったって平気だよ」

 「同行できなくて、ごめんね」

 「いいや。お前も仕事じゃ、しょうがない。気ぃつけてな」

 「うん」

 「じゃぁな」

 「さよなら」

 そう言うと千鶴は雪景色の中を一人、駅まで歩いて行った。
 千鶴は振り返らなかった。忘れはしないが彼女にとって陣野は最早“過去の人”だった。先にいるのは英信二、ただ一人。

 しばらくして陣野も旅館を後にし、東京へと車を走らせた。

 「俺の口実が見抜けないなんて、アイツもまだまだだなー」


 次に二人が会ったのはこの約一年後、千鶴の結婚式の日であった。

 「ちぃちゃん…とっても綺麗だ」

 「ありがとう」

 「英くん、今日は呼んでくれてありがとな」

 「そんな、陣野さんを呼ばないわけにはいかないでしょう。なんたって僕たちの“愛のキューピッド”なんですから」
 「そうね」
 そう言うと千鶴はクスっと笑った。“愛のキューピッド”などというベタな表現が至極滑稽だった。

 「お二人とも幸せそうで、何より」

 「陣野さん、本当にありがとう」

 そう言うと、千鶴は陣野の手を取り握手した。

 「よかった…よかったね」

 レースの手袋をはめた千鶴の手の甲に安堵の雫が滴り落ちた。


 英千鶴はこの約10年後、自宅で夫と後に生まれる9歳の娘と共に、惨殺された。

~続く~

ごめんなさい。新年早々物騒な展開で…。

ペンダントを渡すシーン、実はあれを夢に見て今回この話を思いついたのです。

結構な頻度で夢に出て来てくれるめがねおじさん❤

あぁ、僕蔵さまとドライブしたいわぁ(^ ^人)

でも、ぎーやなさんも僕蔵さまも免許持ってないから無理なのよねぇ(・ε・)

←それ以前の問題です!(笑)

英一家は何故殺されなければならなかったのか?

陣野はこの先どうなっていくのか?

それは、もう少し先で徐々に明らかになって行きますm(_ _)m