オリジナル小説「或る男の場合」3


陣野の部屋に呼ばれた千鶴。

え~、何の用なのよぉ(//ω//)


――――――――――

 「これ、手土産代わりにどうぞ」

 そう言うと千鶴は紙袋からマルボロを1カートン陣野に差し出した。

 「ほほーっ、なかなか気が効くじゃないかぁ…。俺の好みで明らかなものと言えばタバコの銘柄、くらいだもんなぁ」

 褒め言葉にも彼女の表情は強張っていた。陣野の部屋はありとあらゆる物が雑多に散乱しており、几帳面な彼女には耐えがたい空間だった。落ちつかないのか、どことなくそわそわしている。
 1DKの部屋はその用量を大きく上回るであろう物たちで溢れかえっていた。
 奥に置かれたデスクには仕事関係の資料が山積みでそのすぐ横のベッドにまで雪崩れ込んでいた。

 「ベッドはもう何年も使ってないの。最早物置」

 「それを言うなら、この部屋自体が物置みたいなものでしょう?」

 「うまいこと言うな。やっぱりお前さん、素質ある。うん」

 そう言ってへらへら笑うと、ローテーブルを挟んで千鶴と向かい合わせに座っていた陣野はゆっくり立ち上がり台所の方へと向かった。
 台所はしかし、他の場所と比べると整然として至って清潔だった。そう言えば他の場所も散らかってはいるものの食べ物や飲み物の類が散乱しているということは全くなく、しいていうならば小説やドラマなどでしばしば凶器として描写されるような、特大のガラス製の灰皿にタバコの吸い殻の山が形成されていることくらいだった。

 「はいよ」

 そういうと陣野は未だこの空間に馴染めない様子の千鶴にコーヒーを差し出した。

 「どうも」

 そう言って恐る恐る口に運ぶと、意外にもそれは玄人裸足の絶品だった。

 「俺は専らビールだからコーヒーは久々に淹れたが…どうだ?うまいだろ。こう見えても食いもん飲みもんにかけちゃ、一定の自負がある」

 そういうと自分には缶ビールを持って来てそのまま一口やった。

 「料理、なさるんですか?」

 「あぁ。意外?」

 「いや、その…部屋に比べてキッチンが片付いていたので、てっきり料理は全くなさらないものかと…」

 「ちっちっち。洞察力は認めるが、甘いなぁ。料理するから片付いてんだよ。ってか、片付けできないヤツの料理は高が知れてるな」

 「だったら、デスクの片付けも検討するべきではありませんか?」

 「おやおや?お主、実は毒舌?」

 「ふふっ、バレました?」

 そう言ってもう一口コーヒーを啜り再びデスクの方を見やると、さっきは気づかなかったが人気女性アイドルのポスターが貼られている。

 「姫野めの、お好きなんですか?」

 「もしかして、妬いてる?」

 「なんで私が妬かなきゃいけないんですかー」

 「安心しな、お仕事の資料」

 仕事と聞いて幾分ほっとしたことに千鶴は若干動揺した。

 「取材、されてるんですか?」

 「違う違う…ちょっと」

 そう言うと陣野はローテーブル越しに千鶴に手招きして自分に彼女の顔を近づけ小声で続けた。



 「しっ、声がデカいよっ」

 「この部屋、盗聴でもされてるんですか?」

 「ううん。でも、気持ちの問題?」

 「で、陣野さんが姫野めののゴーストってこと?」

 「あぁ。彼女顔は良いんだけど、ほれ、おつむの方が…。フォトエッセイ?みたいなの出すことになったんだけど、からっきしで…俺のとこに来たってわけ」

 「おバカはおバカでかわいいと思うんだけどなぁ」

 「おバカにも限度ってもんがあるだろ?この子はたがが外れてんの」

 「ふーん。何でも屋も大変ですねー」

 「そこでだ、お前さんに協力してもらいたい」

 「協力?」

 「同世代の女子として色々とご指導ご鞭撻の程賜りたいのですがねぇ」

 「それでここに?」

 「ザッツライ!人に聞かれちゃまずいお仕事なんでねぇ」

 「いつもお世話になっているので、それくらいならいくらでも」

 「おっ、よっしゃよっしゃ。サンキュー」

 「でも同世代と言っても、価値観とか全然違うと思うけど…」

 「偏差値もな。でも、そこんところは、ほら、仁さんの腕の見せ所よ」

 そういうと陣野は右手を腕まくりし、数度叩いて見せた。

 「さすが、何でも屋!」

 「おうよ!」

~続く~

あらら、お仕事のお手伝いだったのね(-▽-;)

1話短いですかね?
読みやすさと切れ目重視したんですけど、もうちょっと長めの方が良かったかしら?