2次創作 京都地検の女 「裏の顔」3


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劇団『来夢来人』劇場内、客席にて。
 
 漆原「まさかこない食いつきよかったとは…。あやさんも、興味でてきたん?」

 鶴丸「え?まぁね。ところで、まだよく『来夢来人』について知らないんだけど…」

 漆原「『来夢来人』は京都学生演劇ブームの火付け役となった劇団のひとつで、京大生やった溝端琢磨、ク        イズ番組なんかにもよく出てるやろ?それと京華女子大生の天音京香、ほんでもう一人京大生が旗       揚げしてん。この京大生は、今は芝居は辞めてるから、ようわからんわ」

 鶴丸「竹内のことね…」

 漆原「え?」

 鶴丸「ううん。なんでもない」

 漆原「創設当時から、相当な人気やったみたいよ。特に溝端さんはあの顔立ちやろ?天音京香もごっつい美      人やし…。そういえば、昔二人はつきあっとったみたいやわ。」

 劇場のブザーが鳴り、暗転する。
 

 芝居後。

 漆原「えぇ芝居やったなー。あやさん、折角やし、食事でもせん?」

 鶴丸「ごめんなさい。今から仕事なの」

 漆原「そらしゃぁないなぁ。ほんなら、またね」


 『来夢来人』楽屋にて。
 

 溝端「芝居のご感想は?」

 鶴丸「ごめんなさい。あまり演劇には詳しくないので、どう言ったらいいかわからないんですけれど、でも、テ       レビドラマよりも、息遣いが伝わって、胸に迫るものがあったように感じます」

 溝端「正直ですね、検事さんは。演劇評論家のこねくり回したくだらない感想よりも、よっぽど嬉しいよ。」

棚の書籍を見て鶴丸

 鶴丸「ところで、これ全部、お芝居の台本ですか?」

 溝端「ほとんどそうだけど、この黒革のノートは天音京香全集」

 鶴丸「え?」

 溝端「全部竹内徹作。家に置いとくの恥ずかしいからって、何冊か溜まったらここにおいてくんですよ、あ         いつ。」

 鶴丸「拝見しても?」

 溝端「えぇ、どうぞ」
 
 手に取り、ゆっくりとページをめくる。そこには、天音京香に関する記事の切り抜きや彼女の出演作に対しての感想などが手書きで事細かに書かれている。

 溝端「事件の一報を聞いて驚きましたよ。僕は、竹内が人殺しするとは思えない。聡明な彼がそんなこと、お       かしいですよ」

 鶴丸「えぇ。でも、とてもウソを言ってるようには見えなくて…」

 溝端「あはは。それは全く当てにならないよ。あいつの演技力ったら、ピカイチで。俺なんかよりはるかに上で     すよ。最初はみんな俺見たさで劇場に足を運んでも、あいつの演技みて芝居の魅力に気づかされたっ      て子ばかりでね。俺が勝手に言ってるんじゃなくって、後から劇団に入って来た子たちがみんな口をそ      ろえてそう言ってね」

 鶴丸「はぁ」

 溝端「だから、あいつのウソ、っていうか芝居はなかなか見抜けないってこと。あぁ、京子」

 鶴丸が振り向くと、そこには天音京香が立っていた。

 溝端「竹内の事件の担当検事さん。竹内について話を聞きにいらしたんだ」

 鶴丸京都地検鶴丸です。でも、今京子って…」

 天音「あ、私本名天野京子といいます」

 溝端「彼女の芸名を考えたの、竹内なんですよ」

 鶴丸「そうですか…」

 溝端「京子、ちょっと場所変えたら?」


 劇団近郊のレストランにて。

 天音「竹内君、本当に殺人を?」

 鶴丸「本人はそう供述していますが、今はまだ何とも。目下捜査中です」

 天音「竹内君、少女趣味とかでは決してないんです」

 鶴丸「と、おっしゃると?」

 天音「私と竹内君、学生時代ずっと交際していました」

 鶴丸「え?あなたが交際していたのは溝端さんなんじゃ…」

 天音「いいえ。それは他の劇団員が流したデマなんです。看板役者ふたりがつきあってたら、話題になるだろ      うって」

 鶴丸「そうですか…」

 天音「それだけじゃないんです。彼、学生時代は女性解放運動にも取り組んでいて。少女趣味は男の一方的      な愛欲で、少女を人形としか思っていない趣味であり、女性の人権を著しく侵害するものだ、というよう      な趣旨の記事を同人誌に載せてました。そのことで京大のコミック同好会と激しく対立して、劇団まで       そのとばっちりを受けたりもしていました」

 鶴丸「なるほど…やっぱり違ってたのね…。ところで、竹内さん、どうして演劇をやめたの?」

 天音「彼のお父さんのせいなんです。彼、本当は演劇を続けたかったんですけど、もっと安定した仕事に就く      ようにと」
 

 回想

 竹内父「役者なんてそんないい加減な商売、私が許すと思ってるのか!」

 竹内「わかった。僕は、役者はあきらめる。だから、彼女とは一緒にさせてください」

 父「京子さん?だったな。君も、これと結婚したいのなら、役者をやめて家庭に入るんだな」

 竹内「そんな、父さん!京子はもうじき映画デビューが決まってるんだ。彼女だけでも芝居を続けさせてやっ       てくれよ!」

 父「黙れ!女は結婚したら家に入るもんだ。固い仕事ならまだしも、役者なんて水商売じゃないか!京子さん    、徹と芝居、どっちをとるんだい?さぁ、さぁ!」

 天音「私…」

 父「ふん。即答できないということは、君にとって徹はその程度の男だったということだろ?」


 回想2

 竹内「京子、君は役者を続けるんだ」

 天音「でも、私、竹内君と一緒にいたい」

 竹内「一時の感情で、大事なチャンスを逃したらいけないよ。みんな、頑張っても芽が出ずに終わって行く       んだ。君もよく知ってるだろ?迷う必要なんかないさ。忘れないで。僕はいつでも君の味方だから。僕の      分も芝居に生きてくれないか!」


 現在に戻る。

 鶴丸「そんなことがあったんですか。でも、彼が誰かを庇っていたとして、他の動機が見当たらなくて…。正       直行き詰ってるんです。何でもいいので、何か思い出したことがありましたら、こちらに連絡ください        ます?」

 帰宅後。鶴丸家にて。

 鶴丸「凛、ごめんね遅くなって」

 凛「ううん、大丈夫」

 鶴丸「どうしたの?うかない顔して」

 凛「うん、あのね…私が担任してる生徒、倒れちゃったの、栄養失調で」

 鶴丸「栄養失調?今どき珍しいわね」

 凛「その子シングルマザーのうちの子でね、毎日給食しか食べてなかったんだって。何でもっと早くに気づい     てあげられなかったんだろう…」

 鶴丸「凛のせいじゃないよ。そういうのってみんな隠そうとするから、なかなか気づいてあげられないものよ」

 凛「成長期の男の子だから気にもとめなかったんだよなぁ。今思うとちょっと不自然だったのに…」

 鶴丸「何が?」

 凛「あのね、その子給食に食べる量が半端なかったの。おかわり何回もして。だからみんなから『痩せの大     食い』って渾名つけられてたんだ」

 鶴丸「『痩せの大食い』か…。待てよ、ひょっとして…」
 

 京都府

 鶴丸「ねぇ?吾妻家を見てみたいんだけれど」

 成増「なんでまた?」

 鶴丸「ちょっと引っかかってることがあるのよね…」


 吾妻家にて。

 まず玄関を見る鶴丸

 鶴丸「まぁ、靴がたくさん。これ、全部ブランドものよ…。こっちはご主人のかしら。こちらも上物ね…。麗子ち       ゃんの靴は、製靴とスニーカー。このスニーカーもね」

 成増「一体、何を調べてるんだ、このおばちゃんは…」

 鶴丸「おばちゃんじゃない!」

 リビングへ上がる

 鶴丸「まぁ、高そうな家具ばっかり。これ、ペルシャ絨毯じゃない」

 成増「だから言ったろ、セレブだって」

 2階へ上がる2人

 子ども部屋

 鶴丸「まぁ、綺麗に片付いて。無駄なものが一切ないわね…」

 クローゼットを開ける

 鶴丸「制服が冬服2枚だけ。夏服が無いわね」

 成増「当たり前だろ?夏服は事件当時着ててそのままなんだから」

 鶴丸「私服はジーパンとTシャツが何枚か、それにジャージーだけ…やっぱりおかしい」

 成増「何ぶつぶつ言ってんだよ」


 市内の喫茶店にて。

 天音「すみません、お呼び立てして」

 鶴丸「いえいえ。こちらこそ、ありがとうございます。竹内さんについて、思い出されたことがおありだとか…」

 天音「えぇ。竹内君は、昔からずっと『一年日記』を書いていました」

 鶴丸「『一年日記』というと?」

 天音「彼、毎日事細かに日記をつけていて。でも、一年経つと、捨てちゃうんです。リセットするため、とか言       って」

 鶴丸「でも、彼の自宅からは、日記の類は発見されませんでしたけど…」

 天音「そうですか…。もうやめちゃったのかな。でも、彼、自分で始めた習慣はきちんと続けないと気が済まな      い質なんですけどね」

 鶴丸「因みに、その日記、どういうものなんですか?」

 京香「確かA4サイズくらいの黒革の手帳でしたけど…」

 鶴丸「黒革、ですか…。なるほど、ありがとうございます」

 京香「竹内君のこと、よろしくお願いします」

 鶴丸「もしかしたら、少し協力をお願いすることがあるかもしれません」

 京香「え?」


 地検にて。

 太田「実況見分?むちゃ言わないで下さいよ。竹内は今入院中なんですよ!」

 鶴丸「担当医の話では、車いすに乗った状態だと、外出も可能だということよ」

 太田「そんな…。勝手に話を進められては困ります!」


続く