オリジナル小説「或る男の場合」1

さてさて、久しぶりの「創作」です。

今回、17回に分けてお届けすることになる見込みです。

な、長い(--;)

最後までお付き合いいただけるかどうか、不安。

ジャンルとしては「ミステリ」になるのかな?

今回の僕蔵さんの役どころはフリージャーナリストの陣野。

渋めのちょっとワイルド系(?)な感じです。

実際にはあまり見たことない役柄かも。

ということで、作ってみました(笑)

無い物はね、自分で作っていくもんなんですよ!(爆)

――――――――――

 『路上で死亡していたホームレスの男性の所持品を無断で換金したとして、大阪府警は南署地域課に所属する23歳の巡査を今朝、懲戒処分にしたことを府警が明らかにしました…』

 大阪府警捜査一課に置かれたテレビから恥辱の言葉が流れ出て、場の空気は一気に重々しいものとなった。

 「せこいことしやがって、このアホがっ!」

 「ほんまや。恥さらしもええとこじゃ」

 「ほんま情けないわ…」

 一課の捜査員たちが口々に漏らす。

 「せやけど、ホームレスのおっさんがなんでまたルビーのペンダントなんか…」

 そう疑問を呈したのは精鋭揃いの大阪府警捜査一課の中でもエース刑事と目されている権藤肇警部補だった。

 「どうせどっかで拾たんやろ」

 「ほななんで金に換えよらんかったんや?」

 「そら、換える前にのうなったんやろ」

 「ふーん。ほな、ちょっと行ってこ」

 「権藤さん、どこ行きはるんすか?」

 若手刑事の問いかけにただ「ふーん」とだけ答えると、権藤は捜一の部屋を後にし、南署へと向かった。


 「あのホームレスの所持品をご覧になりたいと?」

 そう言った備品係の顔は怪訝に曇った。

 「ちょっとだけでええねんけど」

 「どうぞ」

 ため息交じりにそう言うと、例のものが収められたところまで案内した。

 「この箱?」

 「はい。大したもんは入ってませんでしたし、事件性はゼロやったと伺ってますが」

 「窃盗以外は、な」

 そう言って権藤がニヤリと笑うと備品係は無表情のまま部屋の鍵を権藤に預け、元いた場所へと去って行った。

 「おぉ、こわっ。えぇっと、これが着とった服か…。きちゃな。ほんでこれが例のペンダント。プラチナ900!こら上もんやなぁ。」

 権藤にはこのペンダントに見覚えがあった。
というよりも、“ルビーのペンダント”と聞いて思い当たる節があったために、渋る備品係に無理矢理倉庫を開けさせたのである。

「後は…何やこれ?般若心経かいな…それと小銭が538円、か…。ペンダントなんてどれもよう似とるけど、やっぱりあの時のもんかもしれへん…。よっしゃ、次行ってみるか!」

 そう呟くと権藤はスマートフォンでペンダントを撮影し、片付けもそこそこに慌てて部屋を飛び出した。

 「これ、悪いけど鍵閉めといて!」

 廊下を歩いていた女性警察官に鍵を放り投げる。

 「ちょ、ちょっと!これどこの鍵ですか?」

 「備品倉庫!鍵も返しといて!」
 
 「困ります!ちょっと!」
 
 権藤が向かったのは警察の官舎にある、懲戒処分を受けた巡査の部屋だった。
 

 「監察官聴取はたっぷり受けましたけど…」

 「これは君の処罰とは関係ないことやねん。どうやらあのホームレス、ある事件の関係者かもしれんでなぁ。あぁ、君の態度が協力的やったら、上に報告しとくで。僕、こう見えても府警内では有名やから」

 もちろん、上に報告するつもりなど微塵も無い。

 「ほんまですか!で、自分は何を話せばよろしいんで?」

 「じゃあ、あのおっさんを発見した時のことをできるだけ詳しく」

 「あの日は小雨が降ってました…」

 憔悴しきって藁をも掴む想いの若者にとっては誰が聞いても嘘だと分かる誘惑にまんまと引っ掛かり、ペラペラと当時の状況を語り出した。
 

 一か月前の12月25日、午前6時頃、林悠馬巡査はパトロールを終えて丁度交番へと帰って来たところだった。
 そこへ、血相を変えた中年男が駆け込んできた。

 「どないしはりました?」

 「ひ、人が…死んでる!」

 「場所は?」

 「そ、そこのベンチで」


 通報を受け現場に駆け付けると、ベンチに座ったまの状態で死亡している男性を発見。
 署に報告し捜査員を待つ間、男の首元に光るものを発見。よく見るとホームレスには似つかわしくない高価なペンダントで、おそらく身よりもないだろう男の所持品を一つくすねても誰もわからないだろうと、ほんの出来心で質屋に持って行ったのだという。
 林巡査はギャンブル癖があり、年齢には似つかわしくない程の借金を抱えていた。
 
 「せやけどあの質屋、おっさんと顔なじみやったみたいで」

 「奴さん、質屋にあのペンダントを持って行ったことがあったんか?」

 「いや、それがそうやないらしくて」

 「え?」

 「別のガラクタ持って行った時に、何かの拍子で首元からネックレスが顔を覗かせたそうで、その時に店の親父がびっくりして聞いたそうなんです。『何でそれを売らんのんや』ってそしたら『これは絶対に売らない』って」

 「ということはやっぱり、金目当てで持ってたわけと違うのか…。そのホームレス、標準語やったん?」

 「そうみたいです」

 「ほんでその後、自分はどうしたん?」

 「その場は何とかごまかして、別の質屋に売りに行ったんすけど、あの親父、おっさんが亡くなったって知って、俺のこと疑うて、警察に連絡しよったんですわ…」

 「それで、現在に至る、と」

 「はい…」

 「そら、お前…質屋が気づいた時が引き返すチャンスやったのに。あっほやなぁ」

 「面目ないです」

 林は申し訳なさそうに何度も頭を垂れたが、権藤の関心は最早別のところにあった。と、いうよりも端からこんな、警察の恥さらしには興味はない。

 「標準語…君が発見したそのホームレス、この男と違うか?」

 そう言うと、権藤は或る男の写真を胸ポケットから取り出し、見せた。
 そこには50半ばの眼鏡をかけた男が写っている。

 「これよりだいぶ老けてましたけど、自分が確認したのは確かに、この男です」

 「やっぱりせやったか…」

 権藤はそう呟くと、礼もそこそこに林の部屋を後に、府警本部へと戻った。


 「急に出て行ったかと思たら血相変えて戻って来て…一体どないしてん!」

 一課長の二見がドスの効いた声ですごんだ。その風体はやましいことが無い人間でさえおののく程だった。

 「あのホームレス、英(はなぶさ)千鶴の元恋人・陣野だったんです」

 「英て…あの?」

 「はい」

 「せやけど、あの事件なら3年前にカタがついとるやろう」

 「でも、ヤツの最後の言葉が自分には納得いかんのです」

 「あんなもん、今際の際の戯れ言やろうが。捜一のエースともあろうお前が、あんなもんに振り回されてどないすんねん!」

 そう言うと二見は右手拳で己が机をドンっと叩いた。

 「捜一のエースの私には、あの事件はまだ終わってないように思えるんです」

 そう言うと、二見の怖面をじっと見つめた。
 しばらくの沈黙の後、

 「はぁ…しゃぁないなぁ。確かにお前の勘はよう当たる。しばらくデカいヤマもないし、何かあっても一人欠けたくらい、どうもないよなぁ?」

 二見が周りに問いかけると、他の刑事たちはにっこり笑って首肯した。

 「有給もあってないようなもんやし、ええ機会や。ゆっくり休んだ、つもりになって好きにせい!」

 「ありがとうございます!」

 そう言うと権藤はまたもや部屋と飛び出した。

 「せわしないやっちゃなぁ…」


 “あの事件”の説明をする前に、陣野と千鶴の物語にしばしお付き合い願いたい。

~続く~

あはは。
今回僕蔵さま写真だけのご出演でしたわね(笑)

次回から出ずっぱりなんで!