当初刻み過ぎて17話になる予定でしたが、切るところを変えたので最終的に15話になりました。
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川端椿は二度の離婚を経験していた。
再婚を機に大阪へ移住。二度目の離婚後も東京へは帰らず、パートをかけもちして何とか生計を立てていた。と言っても、女一人が細々と生きていくには、それ程金は掛からない。
彼女が懸命に働いていたのは、生花を続けるためだった。
元々、椿は上流階級の娘で、10代から生花を嗜んでいた。
苦労してまで続けていたのは、もちろん生花が好きだったからというのが一番の理由ではあったが、それをやめることはいよいよ自分を惨めな境遇へ追いやってしまうことになるのではないか、彼女はそのような思いから、意地でも生花を辞めることはしなかったのだった。
そんなある日、一人の女性が生花教室を訪れた。
「私、生花の経験は全くないのですが、この度主人が自宅開業することになりまして。病気の子やその親御さんたちに少しでも明るい気分になっていただきたくて、お花を生けてみようかな、と」
「ここの師範の池上八千代だす。それはええお心がけだすなぁ」
この女には見覚えがあった。
それは、一度目の夫に離婚届を書かせるために、長い別居後初めて上がった彼の部屋のデスクに飾られた写真に写っていた女だった。
―今、この子とつき合ってんの?
―いや、最近別れた
―振られたの?
―結婚したんだ。俺よりもうんといい男と
―乗りかえられたの?いい気味
―そんなんじゃねぇ
―何それ?チュッパチャップスなんか、好きだった?
―いや。タバコの代わりさ
―禁煙してるの?
―酒も止めた。思い出しちまうんだよ。酒やタバコやっちまうと。コイツと過ごしたあの日々を…。
私が何度言っても止めなかったものを、そんな取るに足らない理由で止めていたなんて…。
腸が煮えくり返る思いだった。
その女が今、私の目の前にいる。幸せそうな顔をして…。
椿は千鶴に近づいた。
「あなた元々東京の方なんじゃなくって?」
「えぇ」
「言葉がこちらのとは違うから」
「やっぱりわかります?自分ではだいぶ関西弁に染まってたつもりだったんですけど」
「私もね、東京出身なのよ」
「そう言えば、椿さん標準語ですもんね」
「別れた亭主がこっちの人でついて来たの。でも向こうに帰るのも面倒くさくって、こっちに居着いちゃったってわけ」
「その気持ち、わかるかもしれない。こちらの方が居心地いいですもんねー」
お前に私の気持ちがわかってたまるか。椿はそう吐きだしてやりたい気持ちをぐっと堪えて、会話を続けた。
「あなたもご主人に?」
「えぇ」
「どうやってお知り合いになったの?」
「ある人の紹介で。昔、とっても世話になった人。口汚くて、私生活もいい加減だったけど、仕事はできて、優しくて…。素敵な人でした」
「もしかして、以前その方と?」
「えぇ、まぁ」
千鶴の話を聞いて椿は仰天した。幸せにしてやるために自ら身を引いた?私を不幸にしておきながら。冗談じゃない。
「そのペンダント、いつもしてるみたいだけど、それも?」
「もう、椿さんには隠し事できませんね。まいったなぁ…」
「今でも、その方のことを?」
「いいえ。もう過去の人ですから…。でも、彼と過ごした時間は、彼から受けたありったけの愛は、私にとって今でもかけがえのないものです」
千鶴の発言は椿にとって、いちいち癇に障るものだった。
千鶴は椿が働く総菜屋をよく利用するようになった。
そのことが、余計椿をいらだたせた。
「千鶴ちゃん、いつもありがとうね」
「いえ。私ね、椿さんのこと尊敬してるんです」
「え?」
「好きなことに打ち込むために、必死で働く姿、とってもかっこいいです。ね、真奈香」
「うん!椿さんかっこいい!」
千鶴は椿が持てなかったものを全て持っている。幸福な家庭、子ども、そして何より陣野の愛…。
それならば、壊してしまえばいいのだ。何もかも。椿はそう思い、それを実行に移した。
「誕生日パーティー?」
「えぇ。今度、真奈香9歳になるんです。もしよかったら一緒に祝ってやってくれませんか?」
「私なんかが行ってはお邪魔じゃない?」
「いいえ。何より真奈香が椿さんを呼んで欲しい、と」
「真奈ちゃんが…じゃぁ、お言葉に甘えようかしらね」
計画を実行に移す絶好の機会は、こうして向こうからやって来たのだった。
~続く~
いかがでしたか?
まさかの真犯人登場。
そう言えば、こんな人いたよね。
年末から長々続いたお話も残すところあと2話!
最後まで読んでくれたら、嬉しいなぁ♪