オリジナル創作「妄想主婦☆うきえちゃん~この物語は3割実話です~」第3話

主要人物

浮橋うきえ(38)
この物語の主人公。主婦。在宅イラストレーター。高校時代からの熱狂的な正名僕蔵ファン。

浮橋誠(48)
うきえの夫。エリートサラリーマン。頭も良く容姿端麗。うきえとラブラブな結婚生活を送っている。

浮橋つかさ(14)
うきえの娘。ひとりっ子。中学2年生。優等生。父親贔屓で何故素敵な夫を持ちながら母親が僕蔵“なんか”を溺愛しているのか今一つ納得できずにいる。と言いながら母親とも仲良し。

石橋ほのか(14)
うきえの双子の姉・たまきの子でつかさのいとこに当たる。つかさと同じ学校に通っている。頭が良く森羅万象ありとあらゆることに精通。最近のエンタメ事情にも詳しく、周りから慕われている愛されキャラ。言葉遣いが独特。


朝食前、テーブルに頬づえをつくつかさ。
 

つかさ「はぁ…。ホワイトデー…」

 

横目でカレンダーを見る。

 

うきえ「どしたの?朝からそんな浮かない顔して…」

つかさ「ん?別に!何でもない!」

うきえ「あー、さては…お返し貰えるかドキドキしてんだ!バレンタインの!」

つかさ「違うっ!そんなバカらしい理由で悩むわけないでしょ!」

うきえ「やーっぱり、何か悩みがあるのね?」

つかさ「え?あ!もうこんな時間!行ってきまーす!」

うきえ「ちょっと、まだだいぶ早いじゃない!朝ごはんはー?」


取るものもとりあえず家を出る。


つかさナレ「話はバレンタインデーの前日にさかのぼる。これは日常生活で起こる様々な問題を自身の類稀なる妄想力で華麗に解決する一人の主婦とその家族の物語…」

 

第3話 Bitter,Bitter, Valentain

 

2月13

 

昼休み、ほのかと昼食を食べるつかさ。

 

ほのか「こないだのテスト、学年一位はつかさちゃんですか?」

つかさ「え?何で?」

ほのか「だって、私二位でしたもの」

つかさ「すごい推理の仕方…」

ほのか「合ってます?」

つかさ「まぁ…」

ほのか「やっぱり!」

 

つかさナレ「事実、中学に上がってから常に私たちが学年一位、二位を行ったり来たりしている」

ほのか「ところで、つかさちゃんは今年誰かに進呈するのですか?」

つかさ「え?何を?」

ほのか「チョコレートですよぉ、バレンタインの」

つかさ「そういうほのかちゃんは?」

ほのか「あ?今、明確に逃げましたね?」

つかさ「そんなんじゃなくて。女が男に何かあげるっていう制度が、どうも癪なのよねー」

ほのか「中2とは思えぬ発言!」

つかさ「だってなんか、アホみたいじゃん」

ほのか「斬って捨てますねぇ…」

つかさ「というよりも、そもそも恋愛に興味が無いの。反面教師がいるからね…」


想像上のうきえ「僕蔵さまぁ~\(^ω^)/=333」


ほのか「なるほど…。同情の余地ありです」

つかさ「そういうほのかちゃんは?」

ほのか「私は…2次元にはたくさんいるのですが…」

つかさ「ははは。ほのかちゃんらしい…」

ほのか「おじさまには?」

つかさ「あー、お父さんにはあげる!毎年プレゼントしてんだぁ」


二人に近寄る雅。


雅  「また始まったよ…お父さん、お父さんってガキかよ?気持ち悪っ…」

ほのか「ちょっと、あなた何なんです!」

雅  「はー?何か文句あんのかよ、ヲタク!」

ほのか「な、なんですとー!」

つかさ「ほのかちゃん、ほっとこ」

ほのか「ですけど…」

雅  「バーカっ!」


2、3人引き連れ教室を後にする雅。


つかさ「ほのかちゃん、もうすぐお昼終わるし、自分のクラスに戻りなよ」

ほのか「でも…」

つかさ「私も5限の準備しなきゃだし。ね?」

ほのか「それでは…また放課後、部室で」

つかさ「うん」

 

放課後、文芸部の部室にて

 

つかさナレ「とりわけ本が好きというわけではない私だが、ほのかちゃんに誘われて入ったのがこの文芸部。運動も苦手だし、というか運動部の体質が苦手で、他に興味あるクラブもなく言われるままに入部し、2年目。なんとなく入った私に小説や詩が書けるハズもなく、手書き原稿の文字おこしや二月に一度発行している雑誌の製本作業、その他雑用を一手に引き受けている。あ、後はイラストレーターの母譲りで絵は少し描けるので雑誌の表紙や挿し絵なども描いている。因みに、美術部に入る程の腕前ではない」

 

ほのか「花園雅、許せませんわ!何ですの、先程のあの態度!」


つかさナレ「花園雅の祖父は文科大臣の花園修一郎。絶大なる後ろ盾のせいかとにかく態度がデカい。何故か私を目の敵にしていて、事あるごとに難癖をつけてくる」


つかさ「まぁまぁ、落ちついて。ああいうのは軽くいなしとくのがベター」

ほのか「他の子も、何ですの?」
つかさ「なーんか、雅のせいでクラスに馴染めないんだよねー。中1で割と仲良かった子もあんま寄りつかなくなっちゃったし…」
ほのか「おばさまはご存知なんですの?」
つかさ「ううん、言えると思う?今朝なんて『あー!夜中の番宣番組撮りそこなっちゃったー』って、もう、世界の終わりかって程の落胆っぷりで…。そんなの、ネットで見ればいいのに…」
ほのか「いいえ!ネットだと視聴するだけで、保存ができませんわ!」
つかさ「お母さんと同じこと言ってるし…」
ほのか「でも、その番組なら録画してあるので、安心してくださいとお伝えください。明日にでもDVDに焼いて持参しますので!」
つかさ「あ、ありがとう…」
ほのか「おばさまに言いづらいのならやっぱり、しかるべき所へ直訴しましょう!」
つかさ「話覚えてたのね。ただでさえそういうのややこしいのに花園修一郎の孫だよ?握りつぶされるに決まってんじゃん」
ほのか「だからって…」
つかさ「その点、ほのかちゃんってすごいよね。自分を貫きながらみんなからも愛されて…」
ほのか「それは違いますわ…」
つかさ「え?」
ほのか「今でも変わり者だって思われてる。本当は目立ちたくないし、普通だって思われたい」
つかさ「ほのかちゃん…」
ほのか「私がアイドルからスポーツまで様々な分野に精通してるの、本当は興味があるからじゃないのです。いや、今は面白いと思ってますわよ。でも、最初はちょっとでも他の子と話を合わせたくて、流行りのグループのことを調べ始めて。私、記憶力はいいでしょう?それで調べてくうちに、調べること、覚えること自体が楽しくなって。それで、クラスの子が何に興味があるのかも全部インプットして。その子が喜ぶような情報を教えたりしているうちに少しずつ私の居場所、立ち位置のようなものが出来てきて、現在に至るのです」
つかさ「ほのかちゃんがそんなに努力してたなんて、全然知らなかった。ごめん」
ほのか「いいえ、気にしないで。人は他人にレッテルを貼ったり貼られたりするものですもの。多かれ少なかれみんな同じような悩みを抱えているのでは?ただちょっと私は…ずば抜けて変わり者というだけで」
つかさ「ほのかちゃんは変わり者だけど、誰よりも優しくて強いよ!」
ほのか「変わり者というのは否定しないのですね…」
 

顧問の坪井先生登場。


つかさナレ「坪井先生は定年前のおじいちゃん先生。とっても優しくて温かみのあるいい先生」

 

坪井「みなさん、進捗具合はどうですかな?」

ほのか「それより、浮橋さんが…」

無言で制止するつかさ。
 

坪井「浮橋くんがどうかしました?」

つかさ「いえ…何でもありません」
 
つかさを見据える坪井。
 

坪井「…そうですか。でも、何かあったら何でも先生におっしゃい。担任に言いにくいことでも私なら話せるでしょう?ほら、もうすぐ辞めますしねー。はっはっ。それで…」

つかさ「何でしょう?」
坪井「作業は進んでますか?」
つかさ&ほのか「あーっ!」
坪井「やれやれ…。お話もいいですが、手もちゃんと動かしてくださいよ。そういうのを何と言うか、ご存知ですかな?」
ほのか「口八丁手八丁」
坪井「ご名答。ご存知なら、その通りにおやりなさい」
つかさ&ほのか「御意…」
坪井「結構…では、目処が立ったら呼びにいらっしゃい。職員室に居ますので」
 

帰宅後

 

つかさ「ただいまー」

うきえ「おかえりー。遅かったね」
つかさ「うん。もうすぐ雑誌の発刊日だから色々と」
うきえ「そう、ほのかちゃんの連載、楽しみにしてるんだぁ」
つかさ「あぁ、あの探偵もの?」
うきえ「うん!主人公のモデルは僕蔵さまなのよ~。いやー、ほのかちゃんったら中学生とは思えない文才だし、僕蔵さまの相をちゃんと掴んでるし、すごいなぁ」
つかさ「確かに、プロってるよねー。あ、チョコの材料?」
うきえ「そう!今年はチョコクッキーにしようかなと思って。仕事立て込んでて生チョコとか作るヒマなくて。手抜きです」
つかさ「いや、クッキーでも十分だと思うよ」
 
その時、つかさの脳裏に先程のほのかの言葉がよぎる
 

「その子が喜ぶような情報を教えたりしているうちに少しずつ私の居場所、立ち位置のようなものが出来てきて、現在に至るのです」

 

つかさ「手をこまねいてるだけじゃだめだ!やっぱり自分から行動してかないと!」

うきえ「どした?」
つかさ「クラスのみんなにも作ろうと思うんだけど、いい?」
うきえ「もちろん!材料はたんまりあるから!」
 

クッキー作りに取り掛かる二人。

 

つかさ「ねぇ?僕蔵にはあげないの?」

うきえ「え?」
つかさ「クッキー」
うきえ「あっ。ふふっ。つかさちゃん、もし全然知らない男の子から手作りクッキー貰ったらどう?」
つかさ「え?怖い…」
うきえ「でしょ?絶対食べないよね。それが答え」
つかさ「じゃぁ、既製品ならいいんじゃない?」
うきえ「ごめんあそばせー。私、バレンタインは誠さんにしか贈らない主義なの~。だから毎年、ごめんねーって言ってるのよ」
つかさ「写真に?」
うきえ「うん、写真に」
つかさ「写真に…」
うきえ「もう、写真写真うるさいなぁ。それに…」
つかさ「はいはい、呼び捨てにはしませんよっ」
うきえ「てんめぇ、絶対わざとだろ?」
つかさ「いや、言葉遣い!」
 

2時間後

 

うきえ&つかさ「できた~」

 

オーブンから取り出し、クッキーをつまむうきえ。

 

うきえ「おいひー」

つかさ「今、『やっぱり僕蔵さまにも食べさせてあげたいーん❤』とか思ったでしょ?」
うきえ「思ってないよ(・ω・;)」
つかさ「いや、顔が肯定してるよ」
うきえ「ちょっとだけ」
つかさ「やっぱり思ったんかーいっ!」
 
一口つまむ。
 

つかさ「これは思うわ」

うきえ「でしょ?『このクッキーに埋もれさせてあげたーい』って思うでしょ?」
つかさ「ちょっと、何言ってるかわかんないんですけど
うきえ「忘れてください」
つかさ「そんな衝撃発言、忘れられるわけないじゃん…」
うきえ「さ、残りの生地も焼かないと~」
つかさ「解かりにくいのか解かりやすいのか解かりにくい母親…」
うきえ「ちょっと、何言ってるかわかんないんですけど」
つかさ「お母さんに言われたくない!あ、そういえばお母さんが録画し忘れたやつ、ほのかちゃん撮ってるし明日にでもDVDくれるって」
うきえ「やったー♪」
つかさ「言えない、やっぱり言えないこんな母親に…」
 

翌日朝。

 

つかさ&うきえ「ハッピーバレンタイン~」

誠  「うわっ、今年はクッキーかぁ。いただきまーす。…ん!ぐっ…うぅ…」
つかさ「どうしたの?」
うきえ「喉詰まっちゃった?水水…」
誠  「なんっておいしいんだぁ!父さんは幸せ者だなぁ。うきえちゃんみたいな料理上手な奥さんとつかさみたいなかわいい娘を持てて。感動して目から鼻水出そうだよー」
つかさ「お父さん大袈裟」
うきえ「私も誠さんみたいな素敵な旦那様を持てて幸せよ~」

小声でつかさ「不在時は僕蔵一色だけどねー」


誠  「うきえちゃん」

うきえ「誠さーん」
 
ハグする二人。
 

つかさ「この家で大袈裟じゃないの、私だけだな…」

 

学校にて。就業前、自然とチョコ交換が始まっていた。

 

つかさ「あ、あの…私もチョコクッキー作ったんで、もしよかったらどうぞ」

 

呼びかけに数人応じて恐る恐る受け取る。

 

雅  「あんたが作ったクッキーなんて、誰が食べたいと思う?」

 

その発言に次々とクッキーを返す同級生。

つかさの持つクッキーの入ったかごを床に叩きつける雅。

 

ほのか「私は食べたい!」

つかさ「ほのかちゃん!」
 

割れたクッキーを小袋から出して泣きながら次々に口にほおりこむほのか。

 

ほのか「おいしい。こんなになってるのに…」

つかさ「もういいよ…」
雅  「うぜぇんだよ、お前!」
つかさ「行こう、ほのかちゃん」
 

廊下にて。

 

ほのか「あんなにおいしいクッキーを、こんなにして…。そもそも、食べ物を粗末にするなんて許せませんわ!」

つかさ「どうしよう、これ…」
ほのか「割れてないのが数枚ありますから、先生たちにお配りしてはいかが?」
つかさ「え?」
ほのか「そう思って、割れたものからいただきました」
つかさ「冷静…」
ほのか「こんなにおいしいクッキー、独り占めしたら罰が当たりますわ」
つかさ「罰が当たるのは他の人だよ」
ほのか「そうですわね」
 

職員室にて

 

坪井「私にもいただけるのですか?」

つかさ「もちろん!」
坪井「では早速…。ん!これはこれは、ほんのりとした甘さとカカオの豊潤な香り…。うん、実に美味!」
つかさ「さすが国語の先生…」
ほのか「完璧な食レポですわっ!」
坪井「浮橋くん、あまり思い詰めないように」
つかさ「え?」
坪井「いや、ごちそうさまでした。そろそろ、朝礼の時間ですぞ」
つかさ&ほのか「はいっ!」
 

駆けだす二人を見つめる坪井。

 

坪井「戻りたくはないだろうが…」

 


現在(3月14日朝)に戻る。

 

校門前、見覚えのある姿を見つけるつかさ。

 

つかさ「森元さん?」

 

それは同級生の森元茜だった。

 

茜  「これ、あの…お返し!」


ラッピングされた小袋を差し出す。


つかさ「え?」

茜  「バレンタインのクッキー、実はこっそりポケットにしまってたんです。後で食べたら、とってもおいしくて。マシュマロ、初めて作ったから自信無いけど…」
 

そっとマシュマロを口に入れるつかさ。

 

つかさ「ん!めちゃうまだよ…」

茜  「よかった…。私、本当は浮橋さんともっと仲良くなりたいの。頭もいいし。友だちのほのかちゃん、だっけ?とっても楽しそうな子だし。いつも仲間に入れて欲しいなぁって。でも…雅に目をつけられるのが怖くって…。それで…」
つかさ「ありがとう」
茜  「え?」
つかさ「大丈夫。私がみんなの立場でも、知らんふりしてたと思う。ほのかみたいなのは珍しいって。いや、森元さんだってすごい勇気。クッキー、隠し持ってまで食べて、お返しまで作ってくれて。実はこの1カ月、ずっと後悔してたんだー。『余計なことしなきゃよかった』って。前よりクラスの雰囲気悪化しちゃったし…。でも、森元さんのおかげでやっぱり作ってよかったって思えた」
茜  「浮橋さん…」
つかさ「つかさでいいよ。さぁ、もう行って。誰に見られてるか、わかんないよ」
茜  「でも…」
つかさ「こういうのは徐々に進めないとね」
茜  「え?」
つかさ「気が向いたら文芸部に来て。火曜と木曜は必ずいるから。あそこだと雅にもばれないし」
茜  「つかさちゃん…ありがとう」
つかさ「こちらこそ、茜ちゃん」
 
茜が先に学校に入る。
 

ほのか「つかさちゃん、おはよう」

つかさ「おはよう」

ほのか「あれは2年2組の森元茜では?」
つかさ「よく知ってるね?」
ほのか「同学年のデータは全てインプット済みです」
つかさ「さすが。実はね…」
 

話しながら二人も教室へと向かう。

 

帰宅後。

 

つかさ「ただいまー」

うきえ「おかえり。おぉっ!」
つかさ「何?」
うきえ「悩みは解決したようですな?」
つかさ「は?」
うきえ「言いたくないこと無理矢理聞こうとは思わない。でも…言いたくなったらいつでも話聞いてあげるからね」
つかさ「お母さん…」
うきえ「あ!」
つかさ「え?」
うきえ「今日の『5時ですよ!』のゲスト、僕蔵さまだったー!また録画し忘れるとこだったー!」
つかさ「ほんとに聞く気あんのかよ…(- -;)」

~たぶん続くと思います(汗)~